taiseinimanの日記

国家公務員総合職合格、名工大院生、INTP

回転軸が一つの剛体の運動と等長変換

$\displaystyle 高さが断面に対して極めて大きい細長い直方体を寝かせて水に沈ませれば,$

$\displaystyle 事実上高さ方向を軸にしか回転しない.$

$\displaystyle それは,慣性モーメントが高さ方向では小さく,$

$\displaystyle 直径方向では極めて大きくなるからである.$

$\displaystyle 慣性モーメントとは力のモーメントを加えたときにどれだけ回転するか,$

$\displaystyle あるいは回転しにくいかを表す指標である.$

$\displaystyle 大きいほど回転しにくい.$

$\displaystyle そのような場合において剛体の運動は,一つの軸の回転と並進運動のみで$

$\displaystyle 表すことができる.$

$\displaystyle 補足として,細長い円柱が水面に垂直な方向で回ることは考えられる.$

$\displaystyle その方向には浮力と重力による力のモーメントは生じないから,$

$\displaystyle 最初に角運動量が与えられればそのまま同じ速度で円運動することになる.$

$\displaystyle しかしながら,水は粘性を持つから空気抵抗と同様な抵抗力を受けて,$

$\displaystyle すぐ止まるので事実上無視した.$

$\displaystyle あるいは,注意深く水に浮かべれば全く水面に垂直な方向で回転しないようにすることはできる.$

$\displaystyle 回転軸の方向が任意な剛体の運動,つまり３つの直行する軸の回転と並進運動$

$\displaystyle で表現できる剛体の運動については次回で論じることにする.$

$\displaystyle 剛体の物理学的な定義はいくつかあるが,$

$\displaystyle 剛体を数学的対象として捉えれば,このように表すことができる.$

$\displaystyle それは剛体を質点の集まりとして捉えたとき,$

$\displaystyle 各質点間の距離は常に保存されるから,$

$\displaystyle 剛体の運動は初期位置の等長変換で表現できる.$

$\displaystyle 等長変換とはその名の通り,距離を保つ変換である.$

$\displaystyle 等長変換は,平行移動,回転,対称移動の３つのみである.$

$\displaystyle まずひとつの軸の回転と並進運動で表すことができる剛体の運動方程式を導出する.$

$\displaystyle 質量Mの剛体をn個の微小な立方体1,2,3,...nに分割し,$

$\displaystyle 時刻tにおけるその中心の位置を\vec{r}_n(t),速度を\vec{v}_n(t),加速度を\vec{a}_n(t)とする.$

$\displaystyle また,微小な立方体nに作用する外力を\vec{F}_n(t),内力を\vec{S}_n(t),質量をm_nとする.$

$\displaystyle 時刻tにおける剛体の重心を\vec{G}(t)とすると,M\vec{\ddot{G}}(t)は,質点に作用する力をすべて足し合わせたものに等しい.$

$\displaystyle 質点間の内力は,作用反作用の法則から互いに大きさが同じで向きが逆なので,$

$\displaystyle すべて足し合わせると相殺されて消える.$

$\displaystyle よって,M\vec{\ddot{G}}(t)は質点に作用する外力の和である.$

$\displaystyle すなわち, M\vec{\ddot{G}}(t) = \sum_{k=1}^n \vec{F}_n(t)...(1)$

$\displaystyle これは,剛体の全質量を重心に集中させたときの運動方程式に等しい.$

$\displaystyle 次に,重心とともに動く座標で考えると,$

$\displaystyle 剛体の各質点は重心の周りを球面運動する.$

$\displaystyle なぜなら,質点間の距離は保存されるからである.$

$\displaystyle ここで一つの軸周りでのみ回転するからその軸を仮にz軸とすれば,$

$\displaystyle 重心を通るz軸に平行な軸(以後G軸とよぶ)周りを各質点は円運動することがわかる.$

$\displaystyle z軸まわりに回転していても,軸の方向ベクトルが同じなら,$

$\displaystyle 異なる点で考えても質点はやはり円運動する.$

$\displaystyle なぜかと言われれば,それは質点間の距離（軸からの腕の長さ）が保たれるからである.$

$\displaystyle ここらへんについては後で説明する等長変換のところで詳しく述べる.$

$\displaystyle 各質点の時刻t=0を基準とした時刻tにおける偏角を\theta_n(t)とすると,$

$\displaystyle \theta_n(t)はnによらない.つまり,全てのnについて\dot{\theta}_n(t) = \dot{\theta}(t).$

$\displaystyle もしnによって異なっていたら,剛体は変形したことになり,$

$\displaystyle 質点間の距離は保存されないからである.$

$\displaystyle 質点\vec{r}_n(t)のG軸まわりの角運動量は,$

$\displaystyle (\vec{\hat{r}}_n(t)-\vec{\hat{G}}(t))\times m_n(\vec{\hat{v}}_n(t)-\vec{\dot{\hat{G}}}(t)).$

$\displaystyle ここで,\hat{r}はz軸に直交する平面に\vec{r}を射影したときのベクトルである.今回の場合では,ベクトルのz成分を0にしたベクトルのこと.$

$\displaystyle 上記の角運動量を微分して整理すると,$

$\displaystyle (\vec{\hat{r}}_n(t)-\vec{\hat{G}})\times \vec{\hat{F}}_n(t) - (\vec{\hat{r}}_n(t)-\vec{\hat{G}})\times m_n\vec{\ddot{\hat{G}}}(t).$

$\displaystyle つまり,重心を通るz軸まわりの外力のモーメント - 重心を通るz軸まわりの重心の慣性力のモーメントになっている.$

$\displaystyle 当然のことであるが,重心とともに動く座標系でみたのだから,$

$\displaystyle 各質点には-質点の質量×重心の加速度の慣性力が作用しているからである.$

$\displaystyle この力のモーメントをすべての質点にわたって足し合わせると,$

$\displaystyle Σ各質点の重心を通るz軸まわりの外力のモーメントになる.$

$\displaystyle なぜなら,Σ(\vec{\hat{r}}_n(t)-\vec{\hat{G}})\times m_n\vec{\ddot{\hat{G}}}(t) = \left(\sum m_n\vec{\hat{r}}_n(t) - M\vec{\hat{G}}\right)\times \vec{\ddot{\hat{G}}}(t) =$

$\displaystyle \left(M\vec{\hat{G}} - M\vec{\hat{G}}\right)\times \vec{\ddot{\hat{G}}}(t) = 0.$

$\displaystyle となって慣性力のモーメントは0になる.$

$\displaystyle これがもし,重心以外の点なら0にはならず,$

$\displaystyle 重心の位置も求める必要が出てくる.$

$\displaystyle 重心以外の点で剛体の運動を解くことは不合理である所以.$

$\displaystyle まあ重心以外の点で並進運動を考えると,内力が0にならないので求めることは重心以外が固定軸となる剛体の運動に限られる.$

$\displaystyle つぎに,質点の角運動量は先程の偏角の時間微分\dot{\theta}(t)を用いることで,$

$\displaystyle \left|\vec{\hat{r}}_n(t)-\vec{\hat{G}}\right|×m_n\left|\vec{\hat{r}}_n(t)-\vec{\hat{G}}\right|\dot{\theta}(t).$

$\displaystyle \left|\vec{\hat{r}}_n(t)-\vec{\hat{G}}\right|は時刻tによらないからr_nとおくと,$

$\displaystyle 質点の角運動量を全て足し合わせたもの,$

$\displaystyle つまり,重心を通るz軸周りの剛体の角運動量L(t)は,$

$\displaystyle L(t) = \dot{\theta}(t)\sum_{k=1}^n m_nr^2_n.$

$\displaystyle L(t)の時間微分はさきほどの力のモーメントの合計に等しいから$

$\displaystyle \ddot{\theta}(t) = Σ各質点の重心を通るz軸まわりの外力のモーメント\div \sum_{k=1}^n m_nr^2_n.$

$\displaystyle 今,剛体を密度ρ,体積Vの一様な物体としたとき,$

$\displaystyle L(t) = \dot{\theta}(t)\int_V r^2ρdV = ρI_G\dot{\theta}(t).$

$\displaystyle I_Gは重心を通るz軸周りの断面二次モーメントである.$

$\displaystyle よって先程の式は,$

$\displaystyle ρI_G\ddot{\theta}(t) = Σ各質点の重心を通るz軸まわりの外力のモーメント$

$\displaystyle と表すことができる.$

$\displaystyle これ以上は,具体的に外力が与えられていないと簡単には表現できない.$

$\displaystyle 最初,剛体の運動は初期位置の等長変換で表現できると述べた.$

$\displaystyle つまり,剛体の運動は,平行移動と回転と対称移動で表現できるということであるが,$

$\displaystyle 等長変換の重要な性質として,ある点まわりの回転は,$

$\displaystyle 任意の異なる点周りの回転と平行移動で表現することができるというものがある.$

$\displaystyle これは複素数平面上で回転と平行移動を考えることで容易にわかるから,$

$\displaystyle 証明は省略する.$

$\displaystyle 逆に言えば,等長変換にこのような性質があるから,$

$\displaystyle 重心まわりの回転と平行移動で剛体の運動を表現できるわけである.$

$\displaystyle なぜなら,剛体の回転軸は常に重心を通るわけではないからである.$

$\displaystyle 回転軸が重心を通るのは外力が釣り合っているときのみで,$

$\displaystyle 重心以外の点で剛体が固定されている場合や外力が釣り合わなければ,$

$\displaystyle 当然重心は動くので重心まわりで見かけ上の回転をしているか,$

$\displaystyle あるいはどの点をとってもその点周りの回転だけでは,$

$\displaystyle 剛体の運動は表現できないために回転中心が存在しないのいずれかである.$

$\displaystyle つまり,並進運動が出てきてしまう見かけ上の回転と並進運動０の回転は異なるということである.$

$\displaystyle では並進運動がでてこない回転の中心はどうやって見つけるのだろうか.$

$\displaystyle 実は,回転を平行移動と回転で表現することは常に可能だが,$

$\displaystyle 平行移動と回転を回転のみで表すことは常に可能ではない.$

$\displaystyle 語弊があるからきちんと述べるが,等長変換において,$

$\displaystyle ある点周りの回転と平行移動を回転のみで表現できる$

$\displaystyle 回転中心が一つだけ存在する.$

$\displaystyle それは言い方を変えれば,回転と平行移動によって元の位置と変わらない点つまり不動点が一つだけ存在するということである.$

$\displaystyle 数学的に述べる.$

$\displaystyle 複素数z_0で表さられる複素数平面上の点周りに任意の複素数zを$

$\displaystyle \thetaだけ反時計回りに回転し,さらに(a,b)だけ平行移動すると,$

$\displaystyle \cos{\theta}+i\sin{\theta} = z_r, a+bi = z_pとおくと,$

$\displaystyle その等長変換によって位置を変えない不動点Pの位置は,$

$\displaystyle (P-z_0)z_r +z_0 + z_p = Pより,$

$\displaystyle P = \frac{z_0(1-z_r)+z_p}{1-z_r}で与えられる.$

$\displaystyle このように必ず１個あるわけだが,$

$\displaystyle 剛体の運動の場合は,全てのtに対してこの複素数Pが変わらないという$

$\displaystyle 条件がつく.今,剛体の各質点の位置が時刻tにおける重心の位置G(t)と,$

$\displaystyle 時刻tにおける重心を通るz軸周りの偏角\theta(t)で表現することができるとき,$

$\displaystyle 不動点Pは,\cos{\theta(t)}+i\sin{\theta(t)} = z_r(t), z_G(t)を時刻tにおける重心の位置とすると,$

$\displaystyle (P-z_G(0))z_r(t) +z_G(0) + z_G(t)-z_G(0) = Pより$

$\displaystyle P(t) = \frac{z_G(t)-z_G(0)z_r(t)}{1-z_r(t)}.$

$\displaystyle t=0を除く全てのtについて,不動点P(t)が同じすなわち,$

$\displaystyle P(t) = Pであれば,回転中心は存在しそれはPである.$

$\displaystyle また,回転中心Pを用いた時刻tにおける剛体の各質点の位置z_n(t)は,$

$\displaystyle z_n(t) = (z_n(0)-P)z_r(t)+Pである.$

$\displaystyle つまり,見かけ上の回転と回転の時刻tにおける回転角は同じということである.$

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